地方分権座談会「国政から地方分権推進を」
平成12年(2000年)10月17日付自由民主から全文掲載

 地方分権が声高らかに謳われ、政府や地方公共団体はそろって、「地方の時代」を合言葉に、行革や規制緩和、市町村合併など地方自治体の体質強化に向けた努力を行っている。今回は、こうした「地方の時代」を当事者(首長)としての経験を踏まえ、国政においても地方分権を強力に進めようと日夜汗をかいている大野松茂衆院議員(元埼玉県狭山市長)、岸宏一参院議員(元山形県金山町長)、岩城光英参院議員(元福島県いわき市長)の三氏に今後の地方のあり方について話し合ってもらった。

●都市計画は地方の努力があってこそ
大野松茂  本年は省庁再編や介護保険のスタートなど、地方にとっても画期的な年であります。特に今日、都市と地方という観点から、下流域(都市)の人々の生活は水源域(地方)の人々の努力があってこそ成り立つという認識が、都市部ではあまりにも少ないのではないかと思います。
岸宏一  同感ですね。大野先生は東京の郊外に位置する狭山の市長として、この問題に熱心に取り組まれたと聞いていますが。
大野  その通りです。下流域の人々は普段の生活で当たり前に水道水を飲むことができるが、その水がどこからきているのかわかっていない人が大変多いですね。
岩城光英  私のところは先ほど岸先生がおっしゃったように、川上・川下ともに存在します。そういう意味では、川上、川下の問題は理解されやすかったです。
 山形県金山町には灌漑用ダムと多目的ダムの二つのダムがあり、下流域の水源として活用されています。下流域の皆さんはこういう状況をよくご存じないんですね。そこで、町長として下流域と上流域の交流を深める努力をしてまいりました。
岩城  私が、いわき市長になってからは水道水源保護条例を制定して水源の保護地域を指定し、排水基準の設定などを手がけてきました。
大野  水資源や環境問題などについては、流域全体として考えていくべきです。つまり、川上のことは川上で、川下のことは川下でという視点では、何もできない。

●都市を守る地方の公共投資もある
 ところで、都市と地方をめぐる議論で象徴的なのは、公共事業です。私は、利根川のある一部分、そこが決壊したら東京の何分の一が水没してしまうという極めて重要な堤防を視察しました。
大野  都市のための地方への公共投資というのは、決して少なくない。都市を自然災害から守るには、広大な地域の整備が必要ですし、それは五十年、七十年に一度の大災害を想定したものです。それを、税金のムダ遣いだと主張する人もいます。
岩城  実際に、公共事業で地方が批判されている。
大野  公共事業で難しいのは、住んでいる人のニーズと脇で傍観している人の求めることにギャップがあること。林道の整備にしても傍観している人はムダ遣いだというが、整備しなければ緑を守れない。ところで、地域地域の課題がきわめて多様になってきましたが、今取り組むべき重要な課題は、どういうものがあるのでしょうか。
岩城  なんといってもまず環境問題です。しかし、自治体が独自に進めようと思っても、国のカベがあって思うように取り組めない。

●新しい国づくりの発想は地方から
 暮らしに密着した環境や福祉・介護、町づくりといった課題は、いままで自治体の方が先に取り組んでいて、国は後から重い腰を上げて法律制定へ動く、という面がありました。新しい国づくりの発想は、すべて地方から始まるのではないでしょうか。
大野  地方行革においてはどう考えていますか。私は、福祉や環境などの問題に一生懸命取り組んできたのと同じように、地方分権、規制緩和、行政改革といった問題は、一体にして取り組まなければ、地方の活力は生まれてこないと思っています。
岩城  地方行革のひとつに市町村合併の課題がありますが、いわき市は、さきに言ったように、五市四町五村の十四市町村が合併して生まれました。合併では、人員削減などの行革のほか、交通手段の発達やごみ処理施設の建設、地方分権の進展を促す効果があると感じます。
 金山町は合併を経験していませんが、私も基本的には市町村合併を進め、効率的な行政体をつくっていくべきだと考えています。
岩城  いわき市は広い行政範囲を持つ自治体のモデルケースであり、交通網の発達などで、合併前の市町村の垣根は確実に薄れつつあります。市町村合併は地方分権のひとつの主体になり得るでしょう。ただし、合併を何が何でも進めるということではありません。

●「3万人市制」で行政組織の足腰強化
 現にダイオキシンで揺れるゴミ処理の問題などは、一市町村では実施が困難です。こういった課題に、広域市町村事業として取り組んでいる地域はたくさんあります。ところで、昭和二十八年の大合併時代に、熱心に合併に取り組んだ所とそうでない所の差が、最近如実に現れてきています。ある県では今もって百以上の市町村があり、住民が千人に届かないところもかなりあるそうです。そこで、人数の問題がひとつ大きな焦点になると思うのですが、大野先生が推進された「三万人市制構想」について教えてください。
大野  「三万人市制」は党の公約でもあります。現在は、市となる条件は人口四万人ですが、これを「町村合併によって人口が三万以上になる場合は市になることができる」とする特例を設けるというものです。つまり、行政組織の足腰を強くするための合併ということになるでしょう。
岩城  「三万人」は、そのひとつの基準ということですか。
大野  私は三万人を目安に合併して市政を行うことを勧めてきました。
 村から市になる、これはいいことですね。三万人ならば、今までより容易に市になれる。
大野  現行の五万、四万という数にこだわらず、三万人の特例があっても良いのではないか。住民の発想で良い市をつくっていこうという意気込みが生まれればいいと思います。
岩城  たしかに、住民の主体的な取り組みがあってこその市政ですからね。
大野  ところで、地方の長として、私が大変に苦労したことに財源の問題があります。地方分権は確かに進んだが、肝心の財源移譲がまだ果たせていません。
 課税自主権など、地方単独で決定できる事項が増えてきました。しかし現実的には歳入・歳出の割合は国・地方に差があります。さらに、農地転用のように、地方の権限が少なすぎます。

●市町村の自主的な政策論議が必要
岩城  税の配分をどうしていくか、自主財源の割合をどう増やしていくか、というのは地方自治体の根本的な問題として早急に取り組まねばなりません。一方、地方議会の定数もそうです。今は上限が定められている。しかし、それぞれの自治体で議会の定数を定めればいいのではないかと思います。国のかかわり、県のかかわりなしに市町村が自主的に政策を議論し、組み立て、あるいは選択する、これが本当の地方自治です。
大野  地方は力を持っています。それを存分に出すことを考えるのはとても夢のある話です。しかし、地方サイドの反省点として、いままで地方分権の進展を地方が国に任せっきりにしていたことがある。
 そうしたことを踏まえた上で、これからは地方が自ら真剣に考え、自分の意思で地方自治をしていく、この意識が大切でしょうね。つまり、地方がやりやすい制度や法律をつくることで、いっそう地方自治の花が開いていくでしょう。
岩城  同時に、自治体も機会をつくり、住民の声をくみ上げる努力を続けなければなりません。
大野  行革は国が行っている以上に地方も進めています。国は地方がそれらの改革をひとつひとつ着実に実行していく上で何ができるのか。このことは国会議員として考えねばならない重要な課題です。